がん幹細胞研究

 

 

 

がん幹細胞標的治療法の研究 

がん幹細胞標的治療法の研究

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がん幹細胞は自己複製能と、多分化能を持っています。がん幹細胞は通常はあまり増殖しないため、抗がん剤や放射線治療が効きにくく、がん幹細胞が生き残るとがんは再発してしまいます。また、がん幹細胞は動きやすい性質があり、がん周囲の血管やリンパ管に侵入して移動し、他の臓器にがんの転移をおこすと考えられています。がん幹細胞には、他のがん細胞に比べて特に多く発現しているがん幹細胞マーカーと呼ばれるタンパクが知られています。がん幹細胞マーカーはがん幹細胞の目印になることから、がんの早期診断やがん幹細胞を標的とした治療に役立つと考えられています。

私達は膵がんについて、①Nestinなどの、がん幹細胞マーカーの発現と役割、がん幹細胞の形態学的特徴の解析、がん幹細胞の抗がん剤耐性や糖鎖解析、がん幹細胞に有効な薬剤の探索などの研究を行なっています。

論文業績紹介

3次元培養により上皮系または間葉系性質を有する膵がんの形態、機能の相違が明瞭となる

Enhanced morphological and functional differences of pancreatic cancer with epithelial or mesenchymal characteristics in 3D culture. Shichi Y*, Sasaki N*, Michishita M, Hasegawa F, Matsuda Y, Arai T, Gomi F, Aida F, Takubo T, Toyoda M, Yoshimura H, Takahashi K, Ishiwata T. *co-first author. Sci Rep. 2019 Jul 26;9(1):10871. doi:10.1038/s41598-019-47416-w. PubMed PMID: 31350453; PubMed Central PMCID: PMC6659675.

本論文では膵がん細胞を立体的に培養(3次元培養)し、人体内に類似した環境で膵がん細胞の形態と機能的な特徴を解析しました。その結果、①通常の接着培養下で膵がん細胞には上皮様の性質を示すがん細胞と、間葉系の性質を示すがん細胞の2種類が存在することがわかりました。②上皮様の膵がん細胞は3次元培養で、球形の浮遊細胞塊(スフェア)を形成し表面を覆う扁平ながん細胞が認められました。上皮様の膵がん細胞には分泌顆粒や微絨毛が多く、Cytokeratin 7、トリプシンなどを発現しており正常の膵臓細胞への分化がみられました。細胞増殖マーカーのKi-67はスフェア周囲を被覆する扁平ながん細胞にのみ認められ、増殖極性が確認されました。③間葉系の性質を示す膵がん細胞は3次元培養で、不整形のスフェアを形成し分化成熟傾向は乏しく、Ki-67陽性細胞はスフェア全体にびまん性に分布し増殖の極性は認められませんでした。④上皮様性質を示す膵がん細胞のPK-1細胞は、Smad4が免疫染色で陰性で、TGF-β1の投与により上皮間葉転換(EMT)が誘導されませんでした。⑤間葉系性質を示す膵がん細胞のPANC-1細胞はSmad4が陽性でTGF-β1投与によりEMTが誘導されました。3次元培養により、膵がん細胞の上皮間葉系性質の違いが明瞭になりました。膵がん細胞の上皮様形態と機能の保持には、TGF-βシグナル伝達系が関与していることが示唆されました。3次元培養を用いた研究は多様性を有する膵がんの個別診断や、個別治療法の開発に有用であることが明らかになりました

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血清を含む培地で培養されたヒト膵癌細胞のスフェアは大型で、癌幹細胞マーカーの発現も増加している

Fetal bovine serum enlarges the size of human pancreatic cancer spheres accompanied by an increase in the expression of cancer stem cell markers. Sasaki N, Toyoda M, Hasegawa F, Fujiwara M, Gomi F, Ishiwata T. Biochem Biophys Res Commun. 2019 Jun 18; 514 (1): 112-117,doi: 10.1016/j.bbrc.2019.04.117.

低接着性のプレートで膵癌細胞を培養すると、スフェアと呼ばれる浮遊した癌の細胞塊が形成されます。通常、epidermal growth factor (EGF)とfibroblast growth factor -2 (FGF-2)を加えた無血清培地で培養することで、癌幹細胞を多く含むスフェアができると考えられています。私達は、膵癌細胞を10%ウシ胎児血清の入った培地で培養すると形態は同様で、よりサイズの大きなスフェアが形成されることを見出しました。PANC-1とPK-1というヒト膵癌培養細胞を血清入り培地で培養すると、両者とも大きなスフェアを形成し、PK-1細胞ではスフェアの辺縁が扁平な癌細胞に被覆されていました。癌幹細胞に多く発現する癌幹細胞マーカーの発現レベルは、半数の癌幹細胞マーカーが増殖因子入り培地で高く、半数が血清を含む培地で高いことが明らかとなりました。これらのことから血清を含む培地で培養したスフェアにも癌幹細胞は多く含まれており、癌幹細胞の解析や癌幹細胞に対する治療法の開発に重要であると考えています

 

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がん幹細胞と正常幹細胞における糖鎖の比較(総説)

Sasaki N, Itakura Y, Gomi F, Hirano K, Toyoda M, Ishiwata T. Comparison of functional glycans between cancer stem cells and normal stem cells. Histol Histopathol. 2019 Apr 26:18119. doi: 10.14670/HH-18-119.

がん幹細胞 (Cancer Stem Cell/CSC) は、腫瘍内に少数存在しており幹細胞性(自己複製能と多分化能)を有し、がんの進展を促進します。がん幹細胞は、従来の治療法に対する耐性やがんの再発に重要な影響を及ぼしますが、詳細な特徴は未だ明らかではありません。がん幹細胞は、新たながん治療の標的と考えられています。これまでに、糖鎖を含む多くの細胞表面マーカーが、がん幹細胞の同定と分離に使用されてきました。細胞表面の糖鎖は一部の細胞の良く知られたマーカーで、細胞シグナル伝達の調節などの重要な役割も果たしています。胚性幹細胞や組織幹細胞などの正常の幹細胞では、未分化状態の糖鎖マーカーが特定されています。これらのマーカーは、主に幹細胞性の維持に必要なシグナル伝達経路を調節していることが知られています。一方で、がん幹細胞に特有の糖鎖は未だ明らかとなっていません。この論文では、がん幹細胞と正常な幹細胞における、糖鎖を介したシグナル伝達経路についての機能的な共通性を紹介しています。 がん幹細胞に特有の糖鎖の同定は、がんの早期診断と根治的治療につながる可能性があると考えています。

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長鎖非コードRNAのH19は膵癌のスフェア形成と、CD24およびインテグリンを介した浸潤に関与する

H19 long non-coding RNA contributes to sphere formation and invasion through regulation of CD24 and integrin expression in pancreatic cancer cells. Sasaki N, Toyoda M, Yoshimura H, Matsuda Y, Arai T, Takubo K, Aida J, Ishiwata T. Oncotarget. 2018 Oct 5;9(78):34719-34734. doi: 10.18632/oncotarget.26176.

私達は、以前H19というタンパクに翻訳されない長鎖非コードRNAが膵癌の転移に重要な役割を果たしており、H19の発現を減少させることで膵癌の転移を抑制できることを動物実験で報告しました。この研究では、H19がどのような機序で、膵癌の転移に関与しているかを研究しました。その結果H19はインテグリンとCD24を介して、膵癌細胞の接着を促進することがわかりました。H19の過剰発現膵癌細胞株に、インテグリンβ1抗体を投与することで、膵癌細胞のスフェア形成や浸潤能が低下しました。この研究でH19が膵癌の癌幹細胞の自己複製や浸潤能に重要な役割を果たしており、これにより膵癌の浸潤転移を促進していることを解明しました。H19が今後、膵癌の転移抑制に向けた新たな治療標的となると考えています。

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膵がんのがん幹細胞:その特徴と検出方法(総説)

Ishiwata T, Matsuda Y, Yoshimura H, Sasaki N, Ishiwata S, Ishikawa N, Takubo K, Arai T, Aida J. Pancreatic cancer stem cells: features and detection methods. Pathol Oncol Res. 2018 Oct;24(4):797-805. doi: 10.1007/s12253-018-0420-x. Epub 2018 Jun 8. Review. PubMed PMID: 29948612.

がん幹細胞 (Cancer Stem Cell/CSC) は多分化能と自己複製能を有するがん細胞で、腫瘤の形成に重要な役割を果たしていると考えられています。がん幹細胞は、膵がん(Pancreatic Ductal Adenocarcinoma/PDAC)の発がんや転移、抗がん剤や放射線治療への抵抗性にも関与しています。がん幹細胞を分離、同定する主な方法として以下の3つの方法が現在広く用いられています。①がん幹細胞マーカーと、②低接着プレートで培養して形成されるスフェア(浮遊細胞)、③細胞内から細胞外への薬剤排泄ポンプ機能が高いSide Population (SP)細胞です。膵がんのがん幹細胞マーカーとしてはCD133, CD24, CD44, CXCR4, EpCAM, ABCG2, c-Met, ALDH-1, nestinなどが知られています。一方で、どのマーカーが膵がんのがん幹細胞に特異的なのかや、がん幹細胞にはこれらのマーカーが単独で発現しているのか複数が同時に発現しているのかなど未だ明らかではありません。がん幹細胞を分離して、その特徴を解析することはがん幹細胞に特異的な治療法の開発に繋がり、膵がんの予後の向上に寄与すると考えられます。この論文では、膵がんのがん幹細胞の特徴とその検出方法について紹介しています。

 

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長鎖非コードRNA, H19の発現を減少させることで膵癌の転移を抑制

Reduced expression of the H19 long non-coding RNA inhibits pancreatic cancer metastasis. Yoshimura H, Matsuda Y, Yamamoto M, Michishita M, Takahashi K, Sasaki N, Ishikawa N, Aida J, Takubo K, Arai T, Ishiwata T. Lab Invest. 2018 Jun;98(6):814-824. doi: 10.1038/s41374-018-0048-1.

H19は胎児期や膀胱癌、乳癌、胃癌、肝癌、前立腺癌や膵癌などで発現が報告されている長鎖非コードRNAです。この研究で、ヒト膵癌細胞を移植したマウスの肺転移巣において移植前のヒト膵癌細胞と比べてH19が82.4倍も増加していることがわかりました。肺転移巣で10倍以上増加しているRNAは11種類でしたが、H19は2番目に増加しており、唯一のタンパクを産生しない非コードRNAでした。H19を増加させた膵癌細胞は移動能が亢進し、逆にH19を減少させると移動能が抑制されることがわかりました。H19を減少させたヒト膵癌細胞をマウスに移植すると、肝転移と肺転移が著明に抑制されることが明らかになりました。ヒト組織での検討で、H19の発現が17%の膵癌患者さんにみられることから、H19が転移に重要な役割を果たしており、H19の抑制が新たな膵癌治療法となる可能性が示唆されました。

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3D培養によって、幹細胞性と抗がん剤耐性を示すABCG2高発現膵癌細胞が誘導

Stemness and anti-cancer drug resistance in ATP-binding cassette subfamily G member 2 highly expressed pancreatic cancer is induced in 3D culture conditions. Sasaki N, Ishiwata T, Hasegawa F, Michishita M, Kawai H, Matsuda Y, Arai T, Ishikawa N, Aida J, Takubo K, Toyoda M. Cancer Sci. 2018 Apr;109(4):1135-1146. doi: 10.1111/cas.13533.

薬剤排泄に関与するABCG2の、膵癌の癌幹細胞との関連について検討しました。セルソーターによってヒト膵癌細胞をABCG2陽性細胞と陰性細胞に分けると、ABCG2陽性細胞は膵癌細胞の10%程度でした。ABCG2陽性の膵癌細胞は予想に反し、抗癌剤に対する耐性能が高くないことがわかりました。さらに、ABCG2陰性の膵癌細胞の方がスフェア形成能や癌幹細胞マーカーの発現が高く、細胞増殖能や移動能も高いことが明らかになりました。次に3D培養を行なったところ、ABCG2陰性の膵癌細胞から多数のABCG2陽性の細胞を含むスフェアが作られました。これらのABCG2陽性細胞からなるスフェアは癌幹細胞マーカーの発現が高く、抗癌剤に耐性であることがわかりました。2D培養でみられるABCG2陽性細胞には幹細胞性や悪性能は少ないものの、3D培養で形成されたABCG2陽性細胞のスフェアは幹細胞性が高く、抗癌剤耐性であることが明らかになりました。これらのことから、ABCG2陰性の膵癌細胞にはABCG2陽性の細胞を作る能力があり、ABCG2陽性の膵癌細胞の悪性能は周囲の環境によって変化すると考えられました。

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ヒト膵癌のスフェアを形成する癌細胞の電子顕微鏡による解析

Electron microscopic analysis of different cell types in human pancreatic cancer spheres. Ishiwata T, Hasegawa F, Michishita M, Sasaki N, Ishikawa N, Takubo K, Matsuda Y, Arai T, Aida J. Oncol Lett. 2018 Feb;15(2):2485-2490. doi: 10.3892/ol.2017.7554.

癌幹細胞は自分と同じ細胞を作ることができる自己複製能と、様々なタイプの癌細胞を作る多分化能を持つ特別な癌細胞と考えられています。癌幹細胞は化学療法や放射線治療に抵抗性を示し、発癌や癌の転移、再発に重要な役割を果たしています。低接着プレート上で癌細胞を培養すると、スフェアと呼ばれる浮遊細胞塊が形成され、このスフェアの中には多くの癌幹細胞が含まれていると言われています。しかし、スフェアの微細構造についてはほとんど報告がないため、ヒト膵癌細胞のPANC-1細胞のスフェアを走査型電子顕微鏡(SEM)と、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察しました。1週間後に形成されたスフェアは接着状態で培養したPANC-1細胞に比べて、nestin, Sox2, CD44v9等の癌幹細胞マーカーが多く発現していました。SEMによる観察ではスフェアはぶどうの房状の形態を示しており、癌細胞の表面は平滑のものから凹凸のあるものなど様々でした。TEMの観察では、癌細胞の表面は平滑なもの、不規則な大きな突起のあるもの、突起と少数の微絨毛のあるもの、多数の微絨毛に覆われているものの4種類が認められました。スフェア内のこれらの膵癌細胞の形態変化が、癌幹細胞からより分化した癌細胞への分化段階を示している可能性があると考えています。

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