がん幹細胞研究

がんの上皮間葉転換研究 

膵がん幹細胞が含まれているスフェア

上皮間葉転換をおこした膵癌細胞(PK-8)

拡大

 人体を構成する細胞には皮膚と連続し外気と接している上皮細胞と、それ以外の骨、軟骨、血管などの間葉系細胞(非上皮細胞)が存在します。上皮細胞と間葉系細胞はそれぞれが分化した細胞で、お互いの細胞に変化することはないと考えられてきました。しかし近年、胎児の発生段階や、創傷治癒の過程で上皮細胞が間葉系細胞のような形態と性質に変化することがあることが解明され、「上皮間葉転換(じょうひかんようてんかん)」と呼ばれています。上皮間葉転換を起こした細胞は紡錘形となり、周囲の細胞との接着性が低下し移動しやすくなります。さらに、上皮細胞に発現するE-カドヘリンなどのタンパクが減少し、間葉系細胞に発現するビメンチン、フィブロネクチンなどのタンパクが増加します。
近年、がん細胞も上皮間葉転換をおこすことが明らかとなり、がんの転移や再発に重要な役割を果たしていることが報告されています。特にもともと移動能が高いがん幹細胞が、上皮間葉転換をおこすことで転移がおこりやすくなるのではないかと考えられます。私たちは現在、がん幹細胞を含むがん細胞の上皮間葉転換を抑制することが新たな治療法となる可能性があると考え、研究を進めています。

 

論文業績紹介

 

 

ヒト膵癌細胞株MIA PaCa-2の培地中に浮遊する細胞の性質を解析

Sasaki N, Gomi F, Hasegawa F, Hirano K, Fujiwara M, Ishiwata T. Characterization of the metastatic potential of the floating cell component of MIA PaCa-2, a human pancreatic cancer cell line. Biochem Biophys Res Commun. 2019  https://doi.org/10.1016/j.bbrc.2019.11.11.120

MIA PaCa-2細胞は65才、男性の膵管癌から樹立された細胞株で、タイムラプスで経時的に観察すると、プレートに接着した紡錘形のMIA PaCa-2細胞が球形となり細胞分裂して、紡錘形にもどることがわかりました。一方で、一部のMIA PaCa-2細胞には球形のまま存在したり、プレートから剥離して浮遊する細胞もあることが明らかとなりました。この浮遊細胞をflow cytometryで検討したところ約90%が生存しており、浮遊細胞の一部は再びプレートに接着し、紡錘形細胞に変化することを発見しました。このように、細胞の形態を変化させる培地中に浮遊している細胞の性質を解析しました。浮遊細胞は接着細胞に比べ、細胞外基質との接着を担うインテグリン類の発現、薬剤耐性を担うATP-binding cassette (ABC) transportersの発現が低下していました。一方、vimentin以外の検討したepithelial to mesenchymal transition (EMT)マーカーは高発現していました。浮遊細胞はG2/M期の細胞比率が接着細胞より高く、遊走能や細胞間接着は接着細胞よりも低いという特徴がありました。さらに、三次元培養下で浮遊細胞は接着細胞よりも抗がん剤(gemcitabine, 5-FU, and abraxane)に感受性が高いことがわかりました。浮遊細胞はEMT markerが高いところから、今後の転移研究に役立つ可能性があり、3次元培養下で抗がん剤への耐性が低いことからは、細胞の浮遊化に伴い抗がん剤耐性を低下する機構が存在するため、この機構を研究することにより新たな治療方法が見つかる可能性があると考えています。同一細胞でさえ様々な性質を示すという事は、癌という形態的にも機能的にも異なる細胞集団には著しく異なる性質の細胞が混在しており、今後の膵癌研究は、この多様性を考慮すべきであることを強く示しています。

 

 

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正常細胞とがん細胞における線維芽細胞増殖因子受容体-(FGFR-2)の選択的スプライシングの役割について(総説)

Ishiwata T. Role of fibroblast growth factor receptor-2 splicing in normal and cancer cells. Front Biosci (Landmark Ed). 2018 Jan 1;23:626-639. Review. PubMedPMID: 28930565.

高齢者がんを含むさまざまながん細胞には1型から4型の線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR-1~4)が発現しています。なかでもFGFR-2は発がんやがんの進展に重要な役割を果たしていることが報告されており、がんの新たな治療標的として注目されています。FGFR-2は膜貫通型の増殖因子受容体で、細胞外ドメインの選択的スプライシングによりIIIbIIIcのバリアントが存在しています。FGFR-2 IIIbは口腔、食道、胃、大腸、膵臓、肺、乳腺、子宮、前立腺などの上皮細胞に、主に発現しています。一方、FGFR-2 IIIcは間葉系細胞や上皮間葉転換(EMT)をおこした細胞に発現することが報告されています。FGFR-2 IIIbIIIcに結合する線維芽細胞増殖因子(FGF)の種類が違うことから、がん細胞への作用も変化すると考えられています。近年の研究で、FGFR-2 IIIbからIIIcへの変換が、がんのEMTに伴う悪性度の増加と関連していることが報告されています。この総説では、がん細胞におけるIIIbIIIcバリアントの発現と役割、制御機構とEMTの関連について紹介しています。

 

 

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