テロメア研究

組織切片FISH法による研究 

組織切片FISH法について

正常食道上皮の組織切片のFISH像

正常食道上皮の組織切片のFISH像

拡大

サザンブロット法によりテロメア長を測定するためには、細胞や組織を破壊してDNAを取り出して測定します。組織は何種類もの異なる細胞からできています。このため、1種類の細胞のテロメア長を知ることはできません。組織切片を用いるFISH法では、細胞の種類別にテロメア長を測定できます。病理診断に用いる組織切片と同じ切片上で、テロメアとセントロメアに対する蛍光付加プローブをハイブリダイズします。両者の蛍光光度比からテロメア長を知ることができます。病理組織学的知識を基礎に、顕微鏡による観察に基づき組織中の特別な部分や細胞種におけるテロメアの短縮の有無を知ります。この方法により、がんの周囲のテロメア長は、がんのない人よりも短縮していることを証明しました。現在、テロメアを過度に短くする因子を明らかにしようとしています。

論文業績紹介

テロメアの短い膵管上皮から前がん病変(PanIN)、さらに膵がんが発生する 

Matsuda Y, Ishiwata T, Izumiyama-Shimomura N, Hamayasu H, Fujiwara M, Tomita K, Hiraishi N, Nakamura K, Ishikawa N, Aida J, Takubo K, Arai T. Gradual telomere shortening and increasing chromosomal instability among PanIN grades and normal ductal epithelia with and without cancer in the pancreas. PLoS One 2015; 10: e0117575

 

本研究では、膵がんのある人の膵臓、膵がんの前がん病変といわれるPancreatic intraepithelial neoplasia=PanINのある人の膵臓を標本として、組織Q-FISH法でテロメア長を求め、がんや前がん病変のない人の膵臓と比較して、膵がんが発症する過程においてテロメア長が短くなることを証明しました。

PanINや膵がんでは正常の膵管(膵臓で膵液の分泌される管:膵がんの発生する場所といわれている)よりもテロメアが短くなっており(図1)、膵がんのある人ではがんのない人の膵臓よりもテロメアが短くなっていました(図2)。

テロメアが短くなりテロメアの機能不全が起きた膵管上皮が、膵前がん病変、膵がんの発生母地となると考えられます。この現象はこれまで私たちの研究グループにおいて口腔や食道、皮膚で証明してきたと同様に、テロメアの短縮により染色体の不安定性が高まることで、発がんに繋がることを示し、扁平上皮ばかりでなく膵臓においても共通の現象が起きていることを証明しました。

 

解説:正常の膵管  (N-small, 小さな膵管; N-large, 大きな膵管) と膵の前がん病変(PanIN-1; 異形の軽い病変, PanIN-2; 異形の中等度の病変、PanIN-3; 異形の強い病変)、膵がん(Cancer)のテロメア長の解析結果を箱ヒゲグラフで表したものです。 PanINの悪性度が進行するに従ってテロメア長は短くなり、膵癌ではテロメア長の著明な短縮がみられます(図1)。さらに、同じような年齢になるよう調整した正常対照群と比べて、膵がんやPanINを有するヒトの腫瘍以外の膵管上皮はテロメア短縮が起きていることがわかります(図2)。

↑ このページの先頭へ

胆道閉鎖症患児の肝細胞のテロメアは短縮している 

Sanada Y, Aida J, Kawano Y, Nakamura K, Shimomura N, Ishikawa N, Arai T, Poon SS, Yamada N, Okada N, Wakiya T, Hayashida M, Saito T, Egami S, Hishikawa S, Ihara Y, Urahashi T, Mizuta K, Yasuda Y, Kawarasaki H, Takubo K. Hepatocellular telomere length in biliary atresia measured by Q-FISH. World J Surg. 2012; 36: 908-916

 

本研究では、肝移植時に摘出した胆道閉鎖症患児の肝臓と同世代の正常児の肝臓を標本として、組織Q-FISH法でテロメア長を比較し、胆道閉鎖症患児の肝細胞のテロメア長が明らかに短い(老化が進んでいる)ことを証明しました。

胆道閉鎖症は出生1万に1人の稀な疾患であり、出生後から乳児早期に発症する閉塞性黄疸を主徴とし、放置すれば胆汁うっ滞性肝硬変から肝不全に進行し死亡する小児難治性疾患のひとつです。現在、小児生体肝移植の対象となる疾患の約70%が胆道閉鎖症でありますが、移植実施時期に関しては、施設間で異なるのが現状であり、蛋白合成能やビリルビン値、凝固機能などで代用(PELDスコア:Pediatric end-stage liver disease score)することにより予備能を把握しています。

本研究では、PELDスコアが低く、肝予備能が保たれていると考えられていた胆道閉鎖症患児においてもテロメア長が正常児に比べて有意に短縮しておりました。細胞老化や細胞障害の指標とされるテロメア長が短い胆道閉鎖症患児は、将来的に肝不全に至る可能性が高いことを示しております。したがって、本研究は、テロメア長の測定により、肝細胞の障害程度や肝予備能を把握することができ、より正確で具体的な肝移植適応時期を決定できることを示した世界で初めての研究です。

図1

      

図2

解説:胆道閉鎖症患児と正常対照群肝組織のテロメア長の解析結果を箱ヒゲグラフで表したものです。サザンブロット法による解析結果(上:図1)では、組織全体でテロメア長を解析するため、多量の炎症性細胞(リンパ球や組織球)、線維芽細胞が含まれる胆道閉鎖症の肝組織では、正常組織と差が見られません。しかし、組織切片を用いたFISH法による解析結果(下:図2)では炎症性細胞や線維芽細胞を除外して肝細胞のみを解析でき、正常対照群よりも患児の肝細胞ではテロメア短縮が起きていることがわかります。

↑ このページの先頭へ

口腔前がん病変はテロメアの短い老化した細胞からできている

Junko Aida, Takanori Kobayashi, Takashi Saku, Masatsune Yamaguchi, Naotaka Shimomura, Ken-ichi Nakamura, Naoshi Ishikawa, Satoshi Maruyama, Jun Cheng, Steven SS Poon, Motoji Sawabe, Tomio Arai, Kaiyo Takubo. Short telomeres in an oral precancerous lesion: Q-FISH analysis of leukoplakia. J Oral Pathol Med. 2012; 41: 372-378

扁平上皮がんを併発しやすい口腔内の白板症(肉眼で白く見える病変)のテロメアが短い(老化が進んでいる)ことを証明しました。これまで、漠然とした概念である「前がん病変」について、HE染色で正常粘膜と差が有る無しに関わらず「テロメアが短縮し(=老化が促進され)テロメア機能不全(=染色体の不安定性)のある状態」と定義することを、この論文中で提案しています。すでに口腔内、食道、バレット食道、皮膚でも証明しました。少なくとも扁平上皮領域では我々の前がん病変の定義”テロメアが短い”は普遍性があるようです。

舌を含めた口腔内の扁平上皮がんは高齢者に多い「がん」です。前がん病変といわれる白板症や扁平上皮がんの一部は肉眼で白く見えます。口の中は食道や胃などと異なり自分でも鏡で見ることができます。歯磨きの時などに時々気をつけて見てみて下さい。口の中の粘膜に白い部分を見つけたら、かかりつけの歯科・口腔外科医に一度相談されることをお勧めします。

図1 

図1説明:口腔底部に認められた白板症 比較的境界明瞭な白色の病変が認められます。(J Oral Pathol Med. 2012; in press)

図2

図2説明:口腔粘膜のテロメア長解析結果を箱ヒゲグラフに表したものです。左から、正常成人、白板症の周囲上皮、白板症の細胞、上皮内癌の周囲上皮、上皮内癌の細胞の解析結果で、赤色が基底細胞、黄色が傍基底細胞、緑色が棘細胞を表しています。白板症と上皮内癌以外では基底細胞と傍基底細胞の比較で基底細胞が有意に長く、基底細胞で比較すると白板症や上皮内癌は正常成人より明らかにテロメアが短く、病変部だけでなく白板症や上皮内癌の周囲上皮においてもテロメアが短縮していることがわかります。(J Oral Pathol Med. 2012; in press)

↑ このページの先頭へ

過度のアルコール摂取はテロメアを短縮させがんを発生させます

Junko Aida, Akira Yokoyama, Naotaka Izumiyama-Shimomura, Ken-ichi Nakamura, Naoshi Ishikawa, Steven SS Poon, Mutsunori Fujiwara, Motoji Sawabe, Masaaki Matsuura, Tomio Arai, Kaiyo Takubo Alcoholics show reduced telomere length in the oesophagus. J Pathol. 2011; 223: 410-416.

食道や口腔の扁平上皮がんを持つヒトは、がんのないヒトより非がん部の上皮のテロメアが短く、染色体不安定性が増加しています。今回、テロメアを短縮させる原因を検討するために、アルコール症患者(アルコール多飲者)の食道上皮について、テロメアを測定してみました。アルコール症患者では食道がんが多発します。その結果、アルコール症患者の食道上皮はテロメアが短縮していました。従って、過度のアルコール摂取はテロメアを短縮させることを証明しました。食道がんにならないようにするためには、アルコールの過剰な摂取は避けなくてはいけません。J Pathol は、現在病理学領域で最もインパクトファクターの高い雑誌で、この雑誌に論文が掲載されグループ全員は大喜びしました。また、この論文の内容は共同通信社を通じて、全国の日刊紙の記事となりました。

図1


図2

解説:
食道のヨード染色後の内視鏡像。ヨード染色を行なうと、正常上皮(上;図1)であれば、一様に全体が褐色に染まります。しかし、多くのアルコール症患者では、まだらです(下;図2)。まだら食道のテロメア長は短く、染色体の不安定性の存在を示しています。(J Pathol 2012;223: 410-416)

↑ このページの先頭へ

食道がんは食道上皮のテロメアが短くなると発生する

Kaiyo Takubo, Masahiro Fujita, Naotaka Izumiyama, Ken-ichi Nakamura, Naoshi Ishikawa, Steven S Poon, Mutsunori Fujiwara, Motoji Sawabe, Masaaki Matsuura, Heike Grabsch, Tomio Arai1, Junko Aida. Q-FISH analysis of telomere and chromosome instability in the oesophagus with and without squamous cell carcinoma in situ. J Pathol. 2010; 221: 201-209.

食道の扁平上皮がんは高齢者に好発する「がん」です。この「がん」は30歳代までは、まず発生しません。では、なぜ高齢者でこの「がん」が発生してくるのでしょうか。この論文の中で、「がん」を持つ食道上皮はテロメアが短いこと、染色体の不安定性のあることを証明しました。つまり、「がん」の発生している上皮では、老化が加速していました。この論文によりテロメアが短くなると「がん」の発生の危険があるといえました。今後は加齢以外のいかなる因子がテロメアを短くするか研究します。

↑ このページの先頭へ

舌がんなどの口腔がんは口腔上皮のテロメアが短くなると発生する

Junko Aida, Toshiyuki Izumo, Naotaka Shimomura, Ken-ichi Nakamura, Naoshi Ishikawa, Masaaki Matsuura, Steven SS Poon, Mutsunori Fujiwara, Motoji Sawabe, Tomio Arai, Kaiyo Takubo Telomere lengths in the oral epithelia with and without carcinoma. Eur J Ca. 2010; 46: 430-438.

舌がんなどの口腔の扁平上皮がんは、現在世界的に増加傾向にあります。臓器としては8番目に多い「がん」と言われています。口腔がんも他の臓器と同様、30歳代までの発症はごく稀です。高齢者においてこの「がん」が発生してくる理由として、高齢者ではテロメアが短縮し、上皮細胞の染色体が不安定となっていることが考えられます。この論文では「がん」を持つ口腔上皮は「がん」のない人に比べてテロメアが短く、染色体の不安定性があることを証明しています。つまり、「がん」の発生してくる人は老化が加速しているともいえます。今後は加齢以外のどのような原因でテロメアが短縮するのかについて研究して行きます。

↑ このページの先頭へ



CONTENTS
  • HOME
  • 研究グループ紹介
  • テロメア研究
  • サザンブロット法による研究
  • 染色体FISH法による研究
  • 組織切片FISH法による研究
  • がん幹細胞研究
  • 高齢者がん・その他の研究
  • 業績一覧